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もろみ日誌

三和酒造株式会社 杜氏 多田様

もろみ造りのデータを収集して見える化。蔵人の働き方を改善する。

清酒「臥龍梅」で知られる三和酒造の創業は貞享3年(1686年)5代将軍徳川綱吉が生類憐みの令を発布する前年に遡ります。
以来300有余年、静岡市は清水区西久保の地で脈々と酒を造ってきた同社は今年、酒造り専用 IoT システム「もろみ日誌」を導入、伝統ある酒造りに新たな風を吹き込んでいます。

※本文中の肩書は、2018年4月現在のものです。本記事の見出しは、2019年3月現在のものです。

データを自動収集して蔵人の働き方を改善する

三和酒造が今回導入した酒造り専用 IoT「もろみ日誌」は、酒母・もろみ工程における「品温管理」を支援するモニタリングシステムです。自動計測したデータをリアルタイムに事務所の PC に送信、品温データを高頻度かつ高精度で収集することで、もろみの状態を遠隔地から常時監視できることが特長です。

同社では南部杜氏協会に所属する菅原杜氏、多田和仁杜氏以下5名の蔵人による酒造りが行われていますが、仕込工程の品温管理の自動化によって、これまでの昼夜を問わない品温見守り作業が改善され、酒造現場の環境は大きな進化を遂げています。タンクごとにセンサーを取り付け、1時間ごとに品温と室温を自動計測してデータを無線で送信、さらにボーメやアルコール度、酸度、アミノ酸、グルコースなどのデータを入力することで酒造における BMD 曲線をはじめとする実績データベースが完成します。数値で表し難い状ぼうの状態把握については、スマートフォンで撮影した画像を登録することで解決しました。

三和酒造
多田杜氏

タイミング予知により負荷を軽減

酒造現場を統括する多田杜氏の立場から見た「もろみ日誌」に対する最初の印象は「酒造現場の環境を確実に改善できるシステム」であるということです。

「導入前は仕込のピーク時には蔵人が夜中に何度も起きて現場へ品温を確認しに行く必要がありました。導入後も品温の変化に応じて現場に行くことには変わりありませんが、現場に行くタイミングを予知できることで、仕込のピーク時は寝入ることさえ許されなかった蔵人にとっては作業環境が抜本的に改善し、仕事への意欲も向上します。また温度範囲を超えたときのアラート通知に加えて威力を感じるのが品温グラフです。スマートフォンで品温変化をグラフで随時に把握できるので、変化が出始めそうなタイミングをより正確に予知できるようになりました」。

現場、経営ともに感じた「見える化」の必要性

酒造に関する専門の知識と技術と経験を有する職人である杜氏については、自身の持つ豊富な知識や技能を公開しないで自分の頭の中にしまい込む傾向が強いことから、酒造に関するさまざまなデータを数値化して見える化につなげるためのシステムの導入については消極的な人も少なくありません。しかし多田杜氏の場合、データを数値化しグラフによって見える化することによる可能性をいち早く感じとり、システム導入に積極的な姿勢で臨んでいました。

同社ではシステム導入以前から、作業で発生したさまざまなデータを可能な限り収集して実際の結果と関連付ける意識が強く、このような現場側の姿勢に「蔵と離れた場所に事務所を構えている状況で、経営者の立場として、仕込の状況は常に把握しておきたい」との鈴木社長の思いが重なったことが、スムーズなシステム導入につながっています。

データの蓄積が酒造に新たな視野を拓く

酒造りの世界では数年に一本(タンク)「我ながら素晴らしい」と自負する酒ができる年があるとのことで、三和酒造では今年がそうであった様子です。

原料である米の選定からはじめすべての工程で全く同じ環境を整えて品温管理を徹底しても「決して同じ酒は造れない」ところが日本酒造りの難しさであり面白さですが、同社ではシステム活用によるデータの蓄積によって酒造りに新たな視野が拓けると期待しています。
「最高に美味い酒が造れた年の温度や品温などのもろみ関連データ、米の品種その他さまざまな情報を蓄積していくことで、より良い酒を生み出すための参考データとして活用することができます」。

予想を上回る品温管理の効果

システム化による品温管理の効果については予想以上のものがあった様子です。大吟醸では厳密な品温管理が必要ですが、「もろみ日誌」では要求温度に対して0.1℃単位での警告温度設定が可能で、品温の変化を正確に把握できます。

当初「もろみ日誌」の導入については、手動で品温管理を行う小型タンクのみに限られていました。しかしその効果が明らかになるにつれ、全ての仕込で正確なデータを取得する必要性を感じ、サーマルタンクを含めた全てのタンクへと導入を拡大しました。導入が全タンクに拡大したことによって蓄積されるデータ量がさらに増え、その活用効果もさらに大きくなっています。

もろみデータの自動収集による品温管理が実現した今、システム化の今後の目標は「麹つくりに関するデータの自動収集」です。麹づくりは酒造りにおいて重要な作業ですが、手作業が多いだけに処理量には限りがあります。この麹つくりの品温監視を自動化することで、同社の酒造りは新たな進化を遂げると期待されています。

酒造業をサポートし続ける「もろみ日誌」

杜氏に国家資格はありませんが、南部杜氏協会などでは杜氏を育てるための講習を行っています。杜氏として一本立ちするまでには実際に蔵に入って杜氏の下で修業を積む必要がありますが、「先輩方の長年の経験を短い期間で学ぶためにも、最低でも三蔵三杜氏の元で各蔵、各杜氏の作業方法や技を盗み自分のものにする事が大切」というのが、杜氏を目指す人への多田氏のアドバイスです。

IoT システムによって蔵人の環境も改善されたとは言え、他の産業に比較するとまだまだ厳しい仕事であることに変わりはなく、システムの進化によるさらなる環境改善が期待されています。

品温の自動計測と関連データを含めた情報蓄積、さらには離れた場所への通知および確認によって酒造環境を大きく改善する IoT システム「もろみ日誌」。最新バージョンでは保管義務のある帳票も印刷可能になるなど、現場の負荷軽減にさらに貢献すべく進化を続けています。